例えば、こんな始まり方
美沙との関係
同じころ、美沙は純一とのアルバムを見ていた。

付き合っているころの公園や遊園地での写真、カフェでの笑顔、ファミレスの店長になって、意気揚々と第一歩を踏み出そうとしている純一・・・。

はぁ・・・いつの間にか、はらはら・・・と涙が流れていた。純一はカフェで仕事が見つかったという。住むところも決まったのだろうか。

美沙は、思い返していた。

「どうして!?また、新しい場所で再スタートしようって、どうして思わないのよ!」

「やめてくれ!詐欺にひっかかるなんて・・・人を信じるのが怖くなったよ。何もする気になれない」

「私が、支えるから、一緒にがんばろう!」

「君には、これ以上、苦労をかけられない・・・別れないか」

「真剣に言ってるの?・・・私への愛情って、その程度のものだったの?」

「そうだな・・・そうなのかもしれない」

パシッ・・・美沙は純一の頬を平手打ちしていた。

「純のバカ!目を覚ましてよ!まだ、がんばれるよ。2人でがんばろう」

「君のお父さんには、感謝してる。・・・いつか、立ち直れたら、必ず返すから」

「そういうことじゃなくて・・・私は純にとって、なんなの?」

「今は、重荷、でしかない・・・」

美沙は、がっくりと力が抜けた。重荷・・・そんな風に思われているなんて。

「分かった・・・結婚指輪、返す。私の前から、消えて!東京にでも、どこにでも、ここから遠いところに行っちゃって!」

純一は、やっと美沙を直視した。後ろを向いて、肩を揺らして泣いていた。この肩を抱く資格はもう自分にはない、と思った。

「離婚届・・・僕の部分は書いて押印してあるから、あとは、美沙のタイミングで出してくれたらいい」

と用紙を渡す。どうして・・・ここまで純一は冷酷になれるのだろう?美沙は思った。

「分かった・・・出てって・・・。今すぐに。もう、顔も見たくない」

想い出を振り返って、美沙は離婚届を引き出しから出した。

まだ、名前も書いていない。・・・と言うことは、まだ、戸籍上は純一の「妻」だ。未練があるのだろうか。どうしても、あの優しい純一が変わってしまったとは思えない。まだ、修復の余地があるのではないだろうか。そんな想いで、離婚届をそのまま引き出しにしまった美沙なのだった。
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