例えば、こんな始まり方
あくまでも、同居、だからねっ!
翌日の朝、起きたら、純一がキッチンに立っていた。

「おはよう。勝手に冷蔵庫開けて、オムレツとサラダ、作ってる。トーストも作る?」

まるで、新妻のような純一を見た瞬間、昨日のことを思い出した。そうだ、私、男の人を拾っちゃったんだっけ。

「ありがとう。バスルームで、シャワー浴びて着替えてくるから、もう少し待って」

通勤着をひっつかみ、バスルームに入る。まだ、ドキドキしている。私、知らない男と暮らすことにしたんだ。なんて、大胆な!パッと浴びて着替えて髪を乾かし、部屋に戻る。

「パン焼くから、待っててな」

純一が言う。こういうとこ、慣れてるのは母親と早くに別離(わかれ)たからだろうか。

「おまたせ~。さぁ、食べよ、食べよ♪」

「うん、いただきます」

ふっわふわのオムレツがおいしい。純一くん、料理上手だ。

「すごく、おいしいよ。これは、夕食も期待しちゃおうかな!」

「任せといて!」

「あと・・・確認しておくけど、私たちはあくまで同居人。それ以上でも、それ以下でもない」

「わかってる。真由には何もしないよ」

私の勤務先は神楽坂にある。東西線乗り入れの電車に乗れれば、30分もかからない。8時20分に毎朝真由は家を出る。

「この鍵を預けるから。戸締りはしっかり、失くさないでね。あと、洗濯物はそのままでいいから」

「ありがとう。仕事頑張って」

「行って来ます」

純一がドアの外に出て、手を振っている。まるで、新婚夫婦のようだ。そんな風に思って、ぶるん、ぶるん、と首を振った。何を考えてるんだ、私。
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