With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
「高校に入って、御崎高と公式戦で当たったのはたった1度。昨年の夏の県大会の4回戦だった。松本哲何するものぞ、そう思ってぶつかって行ったんだが・・・ウチはフォアボ-ルを1つ選ぶのが精一杯、ものの見事にノーヒットノーランで一蹴された。」


「・・・。」


「辛うじてパーフェクトを免れるフォアボ-ルを選んだのは、6番を打っていた俺だった。俺は松本のことは知り尽くしているつもりだったから、なんとかなる、なんとかしてやる。そう思って打席に入った。だが、2年ぶりに、そして初めて敵として打席で見たアイツのボールは俺の想像を遥かに超える進化を遂げていた。ストレ-トのスピ-ドはもちろん、俺と組んでいる時は投げていなかった変化球も少なくとも、俺が高校に入ってから、見たこともないキレだった。フォアボ-ルだって、最初の打席で、さすがに俺を意識したんだろうな。肩に力が入って、奴がコントロ-ルを乱しただけで、別に俺の力でもぎ取ったわけじゃない。その後の打席は、正直手も足も出なかった。」


そう言って、キャプテンは苦笑いを浮かべる。


「そうですか・・・話には聞いてましたけど、本当に凄いピッチャ-なんですね。」


私が感に堪えないように言うと


「力の差は、如何ともしがたかった。だがな俺達は諦めなかった、あと1年、必ずもう1度挑戦しようって。そしていよいよその時が来た。」


キャプテンは一転、表情を引き締めた。


「はい。」


「この1年で、アイツもまた進化してるだろうが、俺達だって、手をこまねいていたわけじゃない。それに新メンバ-も加わった。白鳥は松本が去った後に、神奈川NO1のピッチャ-になれるだけの逸材だ。奴と星が力を合わせれば、そう簡単に点は取られない。大宮と佐藤が加わって、ウチの弱点の1つだった外野守備の強化にもメドが立った、後は・・・得点力のアップ。そこで省吾だ。」


「えっ?」


「奴の一番上のお兄さんは、俺達より遥かに上のウチのOBなんだが、現在も社会人野球で活躍されている名内野手だ。次兄の哲のことは言うまでもない。当然、彼らの弟である省吾にもあふれんばかりの才能と素質がある。俺は中学の時からそう思って、奴を見ていた。だが・・・」


ここで一瞬言葉を切ったキャプテンは


「残念ながら他ならぬ本人が、そのことに全く気が付いてない・・・。」


私の顔を見て、その表情を曇らせた。
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