With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
無事初戦を突破した私たち。次の試合は3日後、それに向けて、練習を続ける。


正式に梅雨明け宣言も出て、いよいよ夏本番。そして私たちの夏も徐々に佳境に入って行く。選手の健康管理に気を配るのも、私の大事な仕事。残念ながら、ベンチから外れてしまった選手達にも協力してもらって、飲料の補充を始めとした環境整備の為に、動き回る。


それが一段落して、グラウンドに戻ると、ノックが始まっていた。


「あちぃな。」


そんな声がして、振り向くと汗をびっしょりかいた大宮くんだ。ノックが終わって、水分補給をしていたようだ。


「お疲れさん。」


「みどりもな。」


そう言って、フッと笑みを浮かべる大宮くん。


「実は今日は、少し心配してたんだ。」


「何を?」


「君がひょっとしたら、来ないんじゃないかって。」


「昨日、1打席でひっこめられたから、へそ曲げてか?」


「うん。」


「博じゃあるまいし、そんなことするかよ。昨日は監督の指示を、いきなり無視した俺が悪いんだ。そのくらい、ちゃんとわかってるよ。」


「そっか、ごめん。」


余計な心配だったと、私は詫びる。


「初回の先頭バッタ-は、とにかく1球でも多く投げさせて、相手ピッチャ-の情報を後続の為に引き出す。そんなのイロハのイだからな。」


「それがわかってて、どうして?」


「つい、手が出ちまったんだよ。あまりにも絶好球過ぎて。ヤベッて思ったけど、まぁヒットだから大目に見てくれるかなと思ったら、即交代。参ったよ。」


と苦笑いを浮かべる大宮くんに、私も思わず笑ってしまう。最初は本当に嫌だった彼からの名前呼びも、いつのまにか受け入れてしまったけど、初対面の時からは、だいぶ印象が変わった。


「とにかく監督は、いい加減なプレ-は許さない。それがどんな選手だろうと。1年でただ一人、レギュラ-になって、俺なら当然といささか天狗にもなってたところ、ガツンとやられてしまった。」


「・・・。」


「とにかく他の外野手を見ても、センターこなせそうなの、見当たらなかったから、ちょっと油断してたけど、思わぬ伏兵がいた。気を引き締めていかないと。」


「伏兵?」


「ああ。本当、盲点だった。」


大宮くんの言ってることが、この時の私には、イマイチ、ピンと来てなかった。
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