君が生まれて来てくれたこと僕が出会えたこの世界がとても輝くなら

一粒


古い森の奥で生まれた一人の龍人の名を暁月夜風と名乗った
夜風は人の世界へ行くのを拒絶したが人間とは身勝手で私達の住処を壊し、新たな屋敷を建てる
「夜風、どうか許して」
龍の母はそれだけ言い残し私と人である父を丸いガラスの球に入れ、遠くへと飛ばした
父は泣いている
私はその意味が分かるのは物心がついた頃
母の行方を捜したが見つかるものか
母は殺された
憎き人間に
父も私も許さなかった
憎き人間を
母と共に暮らした地へと向かうとそこには一枚の欠けらが落ちていた
その欠けらは母と同じ銀の鱗
母よ貴方が伝えたかったのは………
「夜風」
父に呼ばれる
顔を上げると父は微笑んでいた
「お母さんはな、許して欲しいと言ったのは何故だが分かるか?」
私は頷く
「先逝く事を許して欲しかった事、そして私に力を託した事」
当時、私には何も力がなかった
何故なら
親である龍の力を親が亡くなればそれは子供に受け継がれる
母はそれを嫌がって長く生きる術を探す事をしていた
母はいつまでも家族のためを思い家族のために命をかけた
私はそんな母を誇りに思う
けど
私のこの気持ちをどこに捨てれば良い
母への想いと言葉を
後悔と怒りと悲しみを
父はまた泣いた
私を抱きしめて
「夜風、父さんもそろそろ逝く」
その言葉の意味は
「貴方もそうだったものな」
母と結ばれた人間の寿命は母と共有される
つまり
母が父が死ねばお互い亡くなる
けれど
母は禁忌を侵して父だけを長く生きらせた
それの効果が切れるという事
私は最後の父の温もりを感じ
「母に宜しく頼みます」
と言った
父は微笑み
「愛しているよ」
そう言った
父が亡くなる前
父は私の手を握り抱きしめて
「見守っているよ」
そう言い、どんどん体が消えて行く
私は最後に父を抱き締めた
その感覚はもうない
一人という存在に私は絶望した
両親を殺され、人間を愛するなど出来ない
私は父と過ごした屋敷に戻り、ぼーっと空を見上げる
私の首に掛けられたネックレスが音を立てて揺れた
「ガオオオオオオオオオ!」
母と父に届くように
龍の姿で咆哮を出す
どうか届け
この思いを
どうか届け
この苦しみを
私はお前らに人間を
決して許さぬということを
私はこれから龍人として過ごす
周りなどどうでも良い
私は私だ
「それでも寂しい」
父よ母よ
今だけは
どうか
泣かせてください
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