猫になんてなれないけれど
意外な接点
「真木野さーん!冨士原さん、点滴終わったってー」

「あ、はい。行きまーす」

声をかけられ、物品補充をしていた作業中の手を止める。時計を見ると、もう少しで13:30。


(そうだな、そろそろ終わる時間だね)


「じゃあ、上行ってきます」

受付の永田さんに声をかけると、私は、必要物品を持って2階へと続く階段を、速い速度で上っていった。



2階フロアの奥にある、個室のドアをノックして、「失礼します」と声をかけて引き戸を開けた。

ベッドの上の鼻筋の通った横顔が、少しだけ、こちらを向いた。

「お疲れ様でした。ご気分、お変わりないですか」

「はい」

「じゃあ、点滴抜きますね」

ベッドサイドにしゃがみ込み、冨士原さんの左腕に固定された白いテープを、ゆっくりと、皮膚が赤くならないように剥がしていく。

何度見ても、いい血管だなあと思う。

「申し訳ありません。いつも診療時間を過ぎてしまって」

低い声が耳に届いて、私は、慌てて凝視していた血管から視線を外した。職業病かもしれないけれど、変な趣味のようで恥ずかしい。

「いえ。過ぎるって言っても30分ぐらいですし、そのくらいの時間は、1階の患者さんもまだだいたい残っているので」

「・・・そうですか。そう言っていただけると。ありがとうございます」

淡々と語るその顔は、いつも通り涼やかで、言葉に感情がのっているのかよくわからなくなるけれど。

今は眼鏡を外した状態だからか、いつもよりも少しだけ、印象は柔らかい。

会話をしながら、残っているテープを剥がして点滴の針を抜く。止血用のテープを貼ると、後は、いつもと同じ説明をする。

「じゃあ、ここ、5分くらい押さえておいてくださいね」

「はい。ありがとうございました。終わったら降りて行きますので」

「お願いします」

頭を下げて部屋を出る。そして私は、診察室のある1階フロアへと一足先に下りて行った。




< 1 / 169 >

この作品をシェア

pagetop