「オラァッ! いい加減観念しやがれ!」
「だーかーらー! 追っかけて来んなって言ってんでしょーがああああっ!!」
英知くんに視聴覚室で脅されてから早1週間後。
昼休みが始まってすぐ――、私はグラウンドで全力疾走していた。
背後にはジョウロを持った鬼の形相の深月が、私に追い付かんとばかりに迫っている。
理由は言われなくてもわかっている。私が生徒会室に行かないからだ。
「花火テメー、マジでいい加減にしろよ! これ以上逃げたらお前、とっ捕まえて大量に仕事させっからな‼︎」
「んな横暴な! 深月、あんたはもっと優しくて良い子だったでしょおおお!?」
「うっせー! いい加減走るの止めろっつってんだよ! 少しは素直に言うこと聞けってんだ!!」
……だーかーらー! 今の私は、あんたに「待て」と言われて、素直に立ち止まって待てる状況じゃないんだってば‼
もし深月の言う通りにしたら大変だ。すぐに彼によって身柄を拘束されて、生徒会室に連れて行かれて――、必然的に朔夜と関わることになってしまう。
英知くんがあの動画をネットで公開するきっかけに繋がることは、なるべく断ち切っておきたい。
でも、私の思いとは裏腹に、ここ最近の昼休みはいつもこんな感じだ。
私がお昼ご飯を食べに教室を出ようとすると、「今日という今日は逃がさねーぞ!」と見計らったかのように深月が現れる。
それから学内で追いかけっこ――、というところなのだけど、彼は廊下の壁に貼られている『廊下走行禁止』のポスターの律義に守っているらしく、「このっ……! 明日は来いよ!!」となんだかんだで諦めてくれる。
そこには、私にあまりしつこくしないでいてくれてるような気配りが感じられて、少し申し訳ない気分になることも多々あった。でも、今日は違った。
深月の行動パターンを学習して、先回りして外に出たのにも関わらず。
運悪く、花壇の花に水をあげていた彼とばったり鉢合わせてしまったんだ。
フィールドも校舎内ではなく外ということで、猛スピードで追いかけて来るものだから、俊足が自慢の私とはいえたまったものじゃない。
ていうか、この昼休みの追いかけっこって一体いつまで続くんだろう。考えただけで気が遠くなって来た……。