ボードウォークの恋人たち

波乱

***

昼休みに今日は大学に行っているハルからメッセージが届いた。

あと3週間は忙しいと言っていた区切りまであと5日。相変わらず忙しいハルが珍しく今夜は早く帰れるのだとか。

『今日の夕食は酢豚が食べたい』

ハルは基本的に好き嫌いがないけれど、そう言えば甘酢あんはお気に入りだったような気がする。チキン南蛮とか、サバの甘酢あんかけとか。

酢豚か・・・中に入れるお肉と野菜は・・・うん、帰りに買い物に行かなくても冷蔵庫の中にあるものでなんとかなりそう。
はいはい了解っと返信して「今夜は酢豚ね」背後からいきなりかけられた声に驚いて飛び上がった。

「・・・望海さん、驚かすのやめてくださいよ」

「うふふー、ごめんねぇ。でも酢豚とか了解とか水ちゃんぶつぶつと声に出してたからね、これはもう突っ込んで欲しいんじゃないかって」

にやにやしながら指先でつんつんするのもやめて欲しい。

「メールの相手は舘野センセイだよねー。今夜は酢豚かぁ。いいね、夕飯のおかずのリクエストなんて。新婚さんは楽しそうでいいわねー」

「新婚じゃありませんよ。結婚してませんし」

「あら、でも婚約者なんだしラブラブじゃない。あんなイケメンが毎日一緒にいてくれるとかっああー羨ましい」

「もうっ望海さんってばっ」
毎日顔を合わせるわけじゃないけど、確かにハルはイケメンだから同じ家の中に彼がいるといないでは華やかさが違うんだよねぇ。

「私もあなたが呑気なお嬢さまでホントに羨ましいわ」

「えっ」「はぁ?!」

いきなり横から私と望海さんとの会話に加わってきた見覚えのある顔をした白衣の女性を見て弾んでいた心がしなしなとしぼんでいく。

ハルの誕生日、あの洋菓子店にいた人だ。

すらりとしたスタイルに胸元に小さくピンクの薔薇の刺繍の入ったドクターコートを上品に着こなし、長い髪をアップにまとめていて足元はハイヒール。
隙一つない完璧アラサー女子の雰囲気がぷんぷんしてる。ドラマに出てくる女医さんみたい。


「あなたが二ノ宮家のオジョウサマだったのね。治臣の逆玉のお相手の」

つんつんした嫌な言い方。これもドラマに出てくる敵役っぽい。
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