転生人魚姫はごはんが食べたい!
転生人魚姫の悩み
 海の真ん中(こんなところ)で呟いても叶わないことはわかっている。それでも口にせずにはいられないことがあった。

「わたあめが食べたい……」

 もう一度食べたい、懐かしいお菓子の名前。
 空と海の境目から生まれたような入道雲。白くふわふわとしたそれは祭りや縁日で売られていた綿菓子を彷彿とさせる。舌に乗せれば瞬く間に消え、口の中に広がる砂糖の甘さ。

「こんなことになるのなら、もっとたくさん食べておけば良かったのよね」

 懐かしさに少しだけ泣きたくなった。
 もしかして私、今、大人気ないと思われたかしら……。でもでも、大人だって恋しくなるのよ、あの味が! 子どもが並んでいるところに混じって買いにくいだとか、遠慮なんてしなければ良かったのよね。二度と食べられなくなることがわかっていたらもっとたくさん食べたのに!
 いくら後悔したって遅いけれど、こんなことになるなんて一体誰に想像が出来た?

「まさか生まれ変わって人魚になるなんて思わないでしょう!?」

 やり場のない憤りにばしばしと海面を叩く。
 雲を見上げる私は陸地から遠く離れ、見渡す限りの海の真ん中にぽつりと浮かんでいる。決して遭難しているわけではありません。上半身は人間と同じだけれど、私の腰から下は青い鱗に覆われている。

 私の名前はエスティーナ。見ての通り、人魚よ。
 けれどそれとは別にもう一人、私には別の世界で人間として生きた記憶があった。体験したこともないような経験に、知るはずもない知識が蓄積されてたのだから混乱もしたけれど、ある一言がすんなりと現状を受け入れさせてくれたわ。

 これが異世界転生――ってね。

 ここは異世界? 生まれ変わって二度目の人生? その手の小説ならお腹いっぱい読んできたもの、私は大人しく新しい人生を全うするだけよ。
 そうして現実を受け入れ辺りを見渡すと、この世界は私が生きた世界とは明らかに違っていた。
 かつて私が生きていた世界で人魚は空想上の生き物。絵本や物語の中にしか登場しないことは発達した文明によって証明済み。人ですら深海までたどり着けるのだから思い返せば凄い時代だったと思う。
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