転生人魚姫はごはんが食べたい!
縮まる距離
「ご満足いただけましたか? お姫様」

 空腹も満たされ、心も満たされ、幸せに浸っていた私は旦那様からの質問に笑顔で答えた。一つだけ物足りなく感じていることもあるけれど、それは店側にはなんの落ち度もないことだ。けれど旦那様は些細な表情の変化を見逃してはくれなかった。

「なんだ、何か不満でもあったか?」

 ただし旦那様が推測した理由は検討違いもいいところです。

「まさか食い足りない!? それとも俺が半分もらったこと、怒ってんのか!?」

「私の心はそこまで狭くありません。ただ……」

 あまり人前でする話ではないため私は内緒話をするように囁いた。とはいえ店内の賑わいを見れば声を潜める必要はないのかもしれない。彼らの興味は私たち二人から、とっくに美味しい料理へと移行している。

「人魚の取引をしている人間がいないかと期待していたのですわ」

「なんだって?」

「情報収集にはこういう店が一番だとニナが教えてくれました。けれど秘密の取引に遭遇するというのはなかなか難しいのですね」

 そう、私もただ食べ歩いていたわけではないのです! 旦那様に任せきりでも、占いという不確かなものに頼ってばかりもいられません。

「なら、この店を選んだのは失敗だったな」

「どうしてですか?」

「この店の店主は俺と同じで青い人魚様に心酔してんのさ」

「そういえば、みなさんやけに青い人魚に反応していましたよね」

 思い出すのは旦那様と初めて言葉を交わした時のこと。青い人魚に騒めく船員たちの姿は何か思うところがあるような素振りだった。同じ色を持つ身としてはどうしても引っ掛かりを覚えてしまう。

「青い人魚は海の女神様ってな」

「はい?」

 事情を呑み込めていない私に店主さんが説明してくれる。

「奥様、実は私も昔は船乗りだったのですよ。そして不運にも嵐に遭い、幸運にも彼女に助けられたのです」

「彼女?」

 店主さんは懐かしそうに壁に飾られた絵を見つめる。

「あれは私の恩人である女性を描いてもらったものなのです。青いドレスを着てはいますが、彼女はそれは美しい青い人魚でした」

 青い、人魚? それってまさか……

 答えを求めて私は思わず旦那様の方を向いていた。
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