婚約者は野獣
甘やかされる


「疲れただろ」


「・・・うん」


大盛り上がりの大宴会場から
永遠が強引に連れ出してくれたのが
日付が変わる頃

あの場に集まる大勢の組員全て酌を受けたはずなのに
いつもと変わらない様子の永遠は


「着物苦しいだろ」


部屋まで手を繋いで歩きながら
背中の帯を見た

その目が獰猛な野獣のようで


「なっ、え?、苦しくないしっ」


慌てて否定したけど
それが返って気持ちを晒してしまった


「ん?なに?怖ぇ?」


態と耳元で囁く永遠の息がダイレクトに耳を掠めてドキッとする


「・・・っ」


「ま、もちろん期待してくれてるなら応えるけど
直ぐには抱いたりしねぇから安心しろ」


ハハハと笑って離れた永遠は


「どうせ逃げられねぇんだから
覚悟だけはしとけよ〜」


ご機嫌で手を引いた


22歳にもなって
何の経験もないことが普通だと思ってきたけれど

・・・てか、普通ってなに?


繭香は穣さんと中学の頃から付き合っていて
女学院の二年生の時にはそういう関係になったって報告を受けた


・・・あの時は衝撃的だったなぁ


繭香から六年遅れで・・・


てか・・・なにをすればいいの?


い、今から繭香に電話した方が良い?
・・・いや、てか、何て聞くのよ


・・・キャーーーーーーーッ


もう恥ずかし過ぎて
両手で頬を挟むと頭から妄想を吹き飛ばすように左右に振った


「・・・イ!・・・オイ!」


「・・・へ?」


永遠の声にハッとして見上げると
片方の眉毛を上げて訝しげにこちらを見る永遠の視線とぶつかった






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