婚約者は野獣
修学旅行〜沖縄〜







六月某日快晴






* * *




「千色!忘れもんないな?」


「う〜、行ってみないと分かんない」


「クッ、ま、足りなかったら
向こうで買えば良い」



私の返事が余程のツボだったのか
大吾は喉の奥でクツクツ笑いながら
トランクを持って玄関を開けてくれた


「そんなに笑わなくても」


「クッ、あ、悪い」


口角が上がり過ぎて悪いだなんて思っていない返事に頬を膨らませた


エレベーターの到着を待っていると
手に持ったままの携帯が鳴り始めた
指をスライドさせて耳に当てれば
愛しい低い声が聞こえた


(千色か?)

「おはよ、永遠」

(・・・はよ、もう出たか?)

「今、出たところよ」

(空港で待ってる)

「うん」

(じゃあな)


携帯を耳から離すとそのままバッグに入れた




「若か?」


「そう」


地下でエレベーターを降りて車に乗り込む


「一ノ組の琴お嬢も昨日は本家泊まりだったんだから
千色も木村の本家に泊まって良かったんだぞ?」


ルームミラー越しに大吾と目が合う


「いいの・・・」


どうせ近いうちに一緒に住み始めるんだもん・・・


そう続けるはずの唇は開かないままだった


だって・・・


永遠と二人で住むようにと一ノ組が用意してくれるはずだった部屋は
リフォーム途中で配管に不具合が見つかったことによる改修工事中


加えて、永遠がまだ学生であることと私が働いていること
大吾が部屋に来るまでに
エレベーターを乗り換える必要があることに
お義父さんと笙子さんが難色を示して

結局・・・永遠と私、そして大吾の三人が暮らすことになり
“大規模改修”になってしまったのだ

しかもその部屋は一ノ組若頭の階下で側近[上原透]さんの隣の部屋

で、完成まではこれまで通りの生活をしている


それが昨日木村の家に泊まらなかったことと関係あるのかって?


それはね?
































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