婚約者は野獣
先生始まる



「千色!起きて!」


「・・・・・・ん」


「ほら!千色!」


「ん?・・・ん?」


「ほら!寝ぼけてないで
シャワー浴びておいでよ」


身体を揺さぶられて目を覚ますと
頭にタオルを巻いた繭香が見えた


「・・・朝?」


「もう昼よ」


「・・・起きる、ね」


「着替え置いといたから
目を覚ましといで」


「ん、ありがと」


寝ぼけたままベッドから降りると
昨日出かけたままの洋服で

もちろんシワだらけ
脱衣所に入った途端大きな鏡に映ったのは


髪ボサボサのメイクが剥がれた
ダラシの無い女だった


「えーっと」


昨夜を思い出そうとしたけれど
頭が痛過ぎて諦める

記憶も二日酔いも流して仕舞えば良いと

頭から熱いシャワーを浴びた



・・・



広い食堂に繭香と向かい合って座り
朝昼兼用の雑炊を食べている


それも無言で


「・・・っ」


・・・居た堪れない


何故かって?


向かい合う二人を見下ろすように
般若のような顔をした穣さんが仁王立ちになっているから


(怒ってるんだよね?)


(たぶんよ?)


(なにかやったの?)


(覚えてる訳ないじゃない!)


繭香とそんなやり取りを目だけで続けていると


「箸が止まってる」


重低音が降ってきた


「「っ!」」


慌てて箸を動かして
盛大に咽せた繭香は

穣さんの膝の上に乗せられて
大人しくお茶を飲ませてもらっていた


・・・羨ましい


自分の身には起きない状況に溜息を零すと


迎えに来た凱と目を合わすことなく車に乗り込んだ


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