婚約者は野獣
ヤケ酒と再会


朝食を抜いたのに
大した量も食べられなくて

誰よりも先に立ち上がると

いつものように凱が立ち上がろうとするのが視界に入った


「大吾」


「はいっ」


凱より僅かに遅れて立ち上がっていた大吾は

サッと近付くと襖を開いた


呆然と立ち尽くす凱を尻目に

頭を下げて待つ大吾に“行くよ”と声をかけると

食堂を出た


半歩前を歩きながら
チラチラとこちらを窺う大吾

それに気づかない振りをして
部屋まで戻ると


「鍵、かけといて」


「はいっ」


鍵をかけて扉の外へ出ようとする大吾の手を止めた


「大吾も入るの」


「へ?」


驚いた顔の大吾の腕を引くと
扉を閉めて鍵をかけた


「あ〜、疲れた」


昼食に食堂へ行っただけなのに
そう言いながらベッドへダイブした私を

扉の前で立ったまま
鳩豆の顔で見ている大吾


「驚いた?」


「あ・・・はい」


「とりあえず、私付きだから
私の言うことがルールね?」


「承知」


「二人の時は敬語をやめること」


「・・・・・・え」


「二人の時は昔みたいに
“千色”って呼んで」


「・・・・・・っ」


「返事!」


「承知っ」


「夕方にはマンションへ帰るから
荷物纏めておいてね」


「し、っ、分かった」


通達から小一時間で
まだ頭と気持ちの整理のつかない大吾に

考える暇を与えないように話しかけた


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