触れたい指先、触れられない心

▼さよなら▼


 声だけで分かった。
 霞さんのお父さん……


「脱走しようとしても無駄じゃ。……と言いたいところだが、もう覚悟はできておるようじゃの」
「……あぁ」


 霞さんはボソリと呟いた。
 

「お主も、覚悟はできておるのだな?」

 ふと、わたしに問いかけられた。



 覚悟……?
 やだ、ここで頷いたら霞さんと離れ離れになってしまう。


 どうしてここを出たら他人に戻らなきゃいけないの? 
 いやだよ……


 悪い子でごめんなさい、すぐに頷けないよ……



「わたしは……」


 ここを出るまでじゃなくて、ずっと一緒にいたい……

 どうしてか分かんないけど、離れたくないって思うんだ。
 この関係を終わらせるなんて嫌だ。





 でも……



「覚悟はできてます」






 わたしはズルい女になれないみたいだ。




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