異世界でお菓子を振舞ったら、王子と竜騎士とモフモフに懐かれました
「ど、どうでしょうか……?」
「おお、いいじゃないか」
「似合うよ、エリーちゃん!」

 なんだか、恥ずかしい。でも、服はとてもかわいかった。
 ブラウスと水色のジャンパースカートに、フリルつきのエプロンを重ねている。頭にも、メイドさんみたいなヘッドドレス。

 お屋敷のメイドさんのスカート丈を短くしたような感じのデザインだけど、至るところにフリルやレースなど装飾がついている。

 こんなかわいい服、前世だったら着れなかったけれど、エリーには似合っている……と思う。ひいき目かもしれないけど。

「少し野暮ったいが、みつあみにヘッドドレスというのも新鮮だな」
「夏場には半袖のブラウスを併せられるように、ワンピースじゃなくてジャンパースカートタイプにしたみたいだよ」

 箱の中には、替えの長袖ブラウスと、半袖ブラウスも二枚入っていた。

「助かります。エプロンも別だし、お洗濯しやすいから」
「そうだろう。庶民というのは自分の手で洗濯をするのだろう? 知っていたから、そう注文した」

 ドヤ顔のアルトさんの言葉は少しひっかからなくもないけれど、この仕様は正直ありがたい。

「ありがとうございます。こんなにかわいい服を着たの、初めてです」

 頬が熱くなるのを感じながらお礼を述べると、アルトさんもベイルさんも満足げな顔をしていた。
 下町とは違う、凹凸がなくてなめらかな石畳の舗道に夕陽が落ちるころ、すべての準備は終わった。

「じゃあ殿下、我々はそろそろ帰りましょうか。エリーちゃん、明日も開店前に様子を見に来るよ」
「そうだな」

 帰ろうとするアルトさんの背中に声をかけて、引き止める。

「あの。お帰りになる前に、アルトさんに頼みたいことが……」
「俺にか? ベイルではダメなのか?」
「はい。アルトさんは物質を変化させる魔法が得意なんですよね? その魔法で作っていただきたいものがあって……」
「ほう。王族の魔法を雑用に使うとは、いい度胸だ」

 アルトさんが腕組みして私を見下ろしたので、恐縮して身を縮こませた。

「す、すみません。無理だったらいいです」
「いや、面白そうだから手伝ってやろう。何をすればいいんだ」

 ベイルさんは椅子に座って「ここで待っています」と私に目配せしてくれたので、アルトさんと厨房に向かった。
 私は、棚から牛乳の瓶をありったけ取り出して調理台に置くと、アルトさんに向き合った。

「アルトさんには、牛乳を生クリームに変えていただきたいんです」
「生クリーム……?」

 そう、やっぱり思い通りのスイーツを作るには、生クリームが必要不可欠だった。カスタードクリームで代用できないレシピもあるし、生クリームがあるだけで作れるスイーツの幅がだいぶ広がる。
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