異世界でお菓子を振舞ったら、王子と竜騎士とモフモフに懐かれました
 自分でもうまく説明できない気持ちで胸がいっぱいになり、泣きそうになっていると、ベイルさんに肩をぽんと叩かれた。

「エリーちゃん、ありがとう。殿下が自分から国政に関わろうとするの、初めてのことなんだ。どうせ俺の話は聞いてもらえないからって、いつもやる前に諦めていてね……。君のおかげだよ。あんなに生き生きしている殿下は初めて見た」
「そう……なんですか」

 私のおかげだなんて、ベイルさんの買いかぶりだ。でも、アルトさんが変わり始めて、その第一歩がこの店から始まったことは、まぎれもない事実なんだ。

 私はそのことを、とても誇りに思う。スイーツから生まれた縁が、まわりまわってアルトさんの力になった。それも、スイーツがもたらしてくれた『幸せ』のひとかけらだって、思ってもいいのかな。

 * * *

 その後。『スイーツ工房 ソプラノ』には甘さ控えめスイーツが並ぶようになった 。そのコーナーは、「あら、健康的でいいわね」と人間のお客さまの興味もひいたようだけど、試食してもらうと「思ったより……味がしないのね」と全員が断念していた。結果的に、そのコーナーだけは売り切れることがなく、いつガルフさんが来ても対応できるようになったのでよかったと思う。

 ガルフさんとナッツくんは定期的に買いにきてくれ、ふたりが口コミで広げてくれた他の獣人さんも、人型になって訪れてくれるようになった。

 驚いたのは、みんな人間のお金を持ってきてくれたこと。どうしたのか尋ねたら、正体を隠して日雇いの仕事をして稼いだそうだ。それを聞いたアルトさんは、

「正体を隠さないと働けないんだな。……獣人に対する理解がない奴が多すぎる」

 と悔しそうな顔をしていた。

 アルトさんの目指す『獣人さんでも働ける国づくり』の道は楽ではない、とベイルさんが教えてくれた。何度も提案しているものの、上の立場には頭が固い人が多く、なかなか説得できないと言っていた。

 それでも、アルトさんは諦めていないようだ。獣人さんに質問をしている姿を目にするし、ベイルさんと真剣な顔で話し込むことも多くなった。

 そんなアルトさんを見ていると、少しだけ胸がむずむずすることがある。きらきらしたかっこよさには慣れたけど、王子っぽい真面目な姿には慣れていないだけだろうと思っているが。

 近い未来、ガルフさんたちが素の姿でスイーツを買いに来られるような、働く獣人さんたちが笑顔で城下町を歩いているような、そんな日がやってくると、私は信じている。
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