ノクターン

12月の別荘は ひんやりと寒い。

電気を点けると、懐かしいリビングが 浮かび上がってくる。
 

「なんか、懐かしくて泣きそう。」

胸が熱い思いで一杯になっていく。
 

備品には、ていねいに埃よけの布が被せてある。



この部屋に憧れて、智くんに憧れて。

今、智くんの腕の中 この部屋に居る。
 


「ねえ、麻有ちゃん。あの時のピアノ弾いて。ショパン。」

ふいに智くんは言う。
 


遠い日に、私は確かに ここでピアノを弾いた。

発表会に弾く予定だった ショパンのノクターンを 智くんに聞かせた。

智くんと過ごした最後の夏に。
 
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