ノクターンⅡ
「紀之も智之も 結婚するまでは こんなに仲良くなかったのよね。だから 智之が就職する、って言った時 それもいいかなって思ったの。でも 今の二人なら 一緒に会社をやれると思うわ。」

お母様の言葉に みんなが少し しんみりする。
 

「ほら 俺はさ 昔は翼が欠けていたからね。今は 麻有ちゃんがいて 子供達もいてまっとうな人間になったからさ。」

智くんは 優しく私に微笑んでくれる。
 

「麻有ちゃんも 今更って思うだろう。でも 俺が現役のうちに 地盤だけでも固めてあげたいんだ。本当に 申し訳ないね。」

お父様は、いつも謙虚で。
 

「そんな事ないです。私達が 今までこんなに豊かな生活ができたのも 全部お父様達のおかげだから。私達こそ 今更ですが 智くんが決心できたら 力になれたら 本当に嬉しいです。」

私は 少し涙汲んでしまう。
 

「会社が傾いたら 全員 路頭に迷うよ。」

お兄様が、笑いながら言う。
 

「大丈夫です。智くんと一緒なら 私が働く覚悟もありますから。」

私の言葉に 智くんは 笑顔で私の頭を叩いてくれる。
 

「なあ、心強いだろう。」と言って。
 



「麻有ちゃん、ありがとう。」

お母様が しんみりと言う。
 

「早く 引越しできるといいわね。」

お姉様も言ってくれる。

お姉様は 智くんの仕事が変わって 私が不便な時に 手を貸してくれるつもりなのだ。
 


「私こそ。本当にありがとうございます。」

みんなの温かさが 心に沁みる。
 

「あとは 待遇次第かな。引き抜きだからね。」

智くんの いたずらっぽい笑顔に
 
「紀之、新卒の待遇からスタートで。者になるかわからないからね。」お父様も笑う。


「ひでえなあ。」

智くんが言って みんながゲラゲラ笑い。
 
「ママ、どうしたの。」と言う絵里加に
 
「そろそろ、帰ろうね。」とお父様が優しく言ってくれる。
 


今日見た家は、お父様が明日 契約書を交わすということだった。

多分、数億円の買い物。

お兄様達は それを抵抗なく 私達に与えようとしている。


自分の事の様に 喜んでくれて。




私にできる事を考えよう。

智くんと子供達が健やかに暮らせるために。
 
 


< 22 / 228 >

この作品をシェア

pagetop