ノクターンⅡ
40

「今日は、記念日だから、パパとママの、出会いの話しをしようか?」智くんが言う。
 
「わあ。聞きたい。」

絵里加は言う。壮馬は照れて無関心な顔で、頷く。
 

「最初の出会いは、パパが9才でママが7才の時。」

と智くんが言うと、壮馬は飲み物をむせる。
 

「子供じゃない。」

咳き込んだ後で、壮馬が笑いながら言う。絵里加も頷く。
 


「ママは、軽井沢のおじいちゃんの家の子でしょう。パパは、夏になると別荘にくるお金持ちの家の子だったの。」私が言う。

子供達は 新しく立て替えた別荘に 今もよく行っている。
 
「へえ。それで。」絵里加が急かす。
 
「パパが別荘にいる間、毎日 一緒に遊んで 3回、夏を過ごしたかな。パパは、中学受験の勉強があるからって、別荘に来なくなったの。」私が言う。
 
「えー。それで ママ どうしたの?」

絵里加は、興味深気に 先を聞きたがる。
 

「どうもしないよ。パパもママも、子供だったから。そのまま、別々に大人になったんだよ。」

智くんが続きを言う。
 

「それって、悲しくない?」

絵里加が娘らしい感想を言う。
 

「二人とも、子供ながらに好きだったからね。悲しかったよ。」

智くんの言葉に、絵里加と壮馬は頷く。
 

「ママはね、意地になって勉強したの。絶対、パパよりも優秀になるって。」

私は、笑いながら言う。
 

「寂しくなかったの?」絵里加は聞く。
 
「すごく寂しかったわ。」私は素直に言う。
 
「パパも寂しかったよ。ずっと会えなかったからね。どんな女の子になったかなって、いつも思っていたよ。」

智くんは正直に言う。
 

「パパ、会いに行かなかったの?」初めて壮馬が、聞く。
 
「行けなかったんだ、意気地なしで。」智くんは、笑う。
 

「ママはね、頑張って大学に合格して、東京に来たの。パパの事は、良い思い出だって考えるようにして。」

私の言葉に、子供達は、頷く。
 

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