二度目の結婚は、溺愛から始まる
自信と過信


マンションを出てから小一時間が過ぎ、車窓から見える景色は、建物より緑の割合が圧倒的に多くなっていた。

道の両脇には山々が迫り、麓には青々とした「田んぼ」が広がる――いかにも日本の原風景だ。
夏の夜には、蛍が飛び交う姿も見られるかもしれない。

和もの好きにとっては、まさに楽園のような場所だった。


(はぁ……なごむ……)


開け放った窓枠にもたれ、ほうっと息を吐いた途端、車が減速した。


「どうかしたの?」

「ちょっと休憩したい」


蓮は、道の脇にある小さな商店の前へ車を乗り入れた。

個人のお宅にしか見えない軒先には野菜が並び、「地酒」と書かれたのぼりが風にはためいている。


(なるほど……)


休憩は、口実だ。


「すぐに戻る」

「ゆっくりしていいわよ。わたし、その辺をブラブラしてるから」


蓮と一緒に車を降りて、瑠璃とジーノが喜びそうな「田んぼ」の写真を何枚か撮る。

もうすぐ着くと母にメールを送り、思い切り伸びをした。

そよそよと頬を撫でる風が、心地いい。


(何の悩みもなければ、一日中のんびり過ごすのに……)


店主と日本酒談義を繰り広げる蓮の声を背中で聞きながら、小さく溜息を吐く。

昨日の一件について、どうやって切り出そうか悩んでいるうちに、ここまで来てしまった。
征二さんのカフェを手伝うことについても、蓮の本音を引き出せないままだ。

蓮の態度は普段と変わらない。

けれど、朝から一度も、昨日の一件について触れようとしないし、蒼の結婚式や紅さんのことすら口にしないのは、かえって不自然だった。


(昨夜のうちに話しておけば……)


返す返すも、蒼の家からの帰りに寝落ちしてしまったことが、悔やまれた。

寝不足に弱い体質でもないし、酔って眠くなる性質でもない。それなのに、蓮と一緒にいると寝落ちするのがパターン化している気がする。


(ジェットラグが抜けきっていないから? 環境や気候の変化で疲れている? それとも、蓮が傍にいると……安心するから?)


「待たせて悪い、椿」


寝落ちしてしまう原因をあれこれ考えていると、日本酒六本入りのプラスチックケースを抱えた蓮が戻ってきた。


「そんなに買ったのっ!?」

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