二度目の結婚は、溺愛から始まる
揺らぐ心、揺らがない絆


ナンパ男――「梛」と別れ、駅ビルの雑貨屋で子ども向けのゲームに使えそうな猫グッズなどをチェックした後、『TSUBAKI』に涼と愛華を訪ねたのは、午後三時。

ランチタイムほどではないが、店は学校帰りの学生や午後のお茶を楽しむ女性客で席の八割が埋まっていた。

個室が使用中のため、四人掛けの席で涼と愛華の手が空くのを待つことにして、やっぱり少し薄く感じるカフェモカを飲む合間に、何度目かわからない溜息を吐く。


「はぁ……」


溜息の原因は「霧島 梛」と謎の「お嬢さま」だ。

梛は、あの「お嬢さま」と付き合っていたが、彼女が「結婚」することになって、彼に別れを切り出した――。

蒼のように一足す一を三にも四にも出来る勘の良さを持ち合わせていなくても、それくらいはわかる。

しかも、彼女が、ステータスなどの条件だけで選んだ「お嬢さまに相応しい相手」と結婚したのだとすれば……。


(復讐とまではいかなくても……見返してやろうとは、思うかもしれない)


あの場にいたのがわたしではなくとも、梛は「恋人」だと見栄を張ったことだろう。

ナンパ男(梛)は、自信たっぷりにわたしが彼を好きだなどと血迷ったことを叫んでいたが、そもそも彼が本気で「わたし」を恋愛対象として「好き」だなんて信じられなかった。

梛の作品を見れば、彼と共有できる感覚は、蓮よりも多くあるとわかる。
同じものを同じように見ることができる――そう言った梛の言葉は、正しいと思う。

だからと言って、「恋愛」が生まれるわけではない。

わたしと蓮には、家庭環境、学校、仕事、どこを取っても共通点がほとんどないけれど、惹かれずにはいられないのだから。

理屈では説明できない感情に、昔もいまも――再会してから翻弄されっぱなしだ。

そんな状態でヒトの恋路に首を突っ込む余裕などない。
わたしは梛の恋人ではないと、彼の(・・)お嬢さまにはっきり否定しておきたかった。

そのためには彼女に会う必要があるが……


(どこの誰なのか、さっぱりわからないんだけど)


当事者の梛に訊くわけにはいかない。
蓮は、何か知っていそうだったけれど、余計な心配をかけたくない。
口が軽い人間にうっかり訊いて、妙な噂が立って、ワケアリな二人の仲がこじれても嫌だ。


(……やっぱり、困ったときの緑川くん?)


何でもオールマイティにこなす緑川くんなら、上手い具合に立ち回ってくれるかもしれないと思った時、ふと視界に影が差した。

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