二度目の結婚は、溺愛から始まる

「何よ……」


むっとして振り返ったわたしの唇に、柔らかくて、温かいものが触れた。


(え……?)


一瞬、何が触れたのか理解できなかった。


「れ、ん……いま……キス……?」

「おまえは、しゃべりすぎだ」

「な、んっ……」


蓮は、わたしの声を啄むように軽いキスを繰り返す。

唇を重ねる度に触れ合う時間が長くなって、掠めるだけだったキスは、やがて深く濃厚なものに変わる。

唇を割られ、生まれて初めて他人の舌を味わった。

甘いはずのキスは、苦く、コーヒーの味がした。
カフェイン中毒のわたしには、ちょうどいい。


「うっ……あ……」


無我夢中でキスに溺れているうちに、頭がクラクラし始める。


(息……できない……)

「ふっ……はぁっ……れ、ん……くるし……」


息も絶え絶えになり、軽くその胸を叩いて訴えて、ようやくキスから解放された。


「椿……? バカ、どうして息をしないんだっ!?」


ぐったりしたわたしを抱きかかえる蓮は、呆れ顔だ。


「だって……キスしながら、どうやって息なんかできるの?」


同じ年ごろの女性たちはとっくに会得している技かもしれないと思いつつ、恥ずかしさを堪えて訊く。

蓮は目を見開き、次いで笑い出した。


「そんなに笑わなくたって……バカにしなくたって、いいじゃない……」

「バカにしているんじゃない。かわいいことを言うと思っただけだ」


笑いすぎて涙ぐみなら、蓮はわたしの頭を軽く叩く。


「子どもじゃないんだから、やめてっ!」


むっとしてその手を振り払おうとしたが、逆に捕らえられ、自由を奪われた。


「知らないことは、これから覚えればいい。俺が教えてやるよ」


笑みを消した蓮は、これまで見たことのない顔――獲物を前にした捕食者の顔をしている。


「れ、蓮……?」

「おまえが始めたんだ。本気にさせた、責任を取れよ?」

「あ、の……」

「それとも……お子さまの付き合いのままが、いいのか?」

「よくないっ!」


即答したわたしに、蓮はにやりと笑ってキスをした。


「意見が一致して、何よりだ」


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