二度目の結婚は、溺愛から始まる
紙の上で結ぶ縁
不審な兄を送り届けた帰り道、これから夕食を作るのも億劫だと言って、蓮は懐かしい場所――わたしたちが、初めて食事に出かけたイタリアンレストランに連れて行ってくれた。
あの頃は、建物の外観も内装も、いかにも高級そうなイメージだったが、テーブルや椅子などの家具が、アンティークからモダンでカジュアルな印象のものに変わっている。
「内装、変わったのね？ もしかして……『KOKONOE』の商品を使ってる？」
「少し、カジュアルな印象にしたいとオーナーから相談を受けて、コーディネートをうちで担当した」
「確か、蓮はここのオーナーと知り合いだって言っていたわね」
「……よく覚えてるな」
「忘れるはずないでしょう？ 初めてのデートだったんだから」
「デートというより、お互いの化けの皮を剥がす初対決のようなものだったろう？」
「あれは、デートよ！」
わたしの主張に、蓮は苦笑して折れた。
「そういうことにしておこう。椿も大人になったから、ワインを飲みたければ頼んでいいぞ？」
「……遠慮しておくわ。蓮も一緒に飲めないなら、つまらないもの。ミネラルウォーターにする」
「随分、聞き分けがよくなったのも、大人になった証拠か……」
「蓮！」
くすりと笑った蓮は、時間のかかるコースではなく、単品でサラダ、メインの肉料理とリゾットを「シェフのおまかせ」で注文した。
「ところで……ハナって、絶対に犬じゃないわよね？」
「だろうな。犬は電話を架けたりしない」
「……女のひとだと思う？」
「そうだろうな」
一向に、結婚する気配のない兄の恋愛が気になるのは、興味半分、心配半分だ。
「ねえ、柾から何か聞いてないの？ 蓮」
「聞いてない。柾は、昔からヒトの恋愛に口を出すし首も突っ込むが、自分のことは話さない。高校時代も、二年の終わりまで、ほぼ毎日のように午後から早退していたが、何をしているのか誰も知らなかった。人妻と付き合ってるんじゃないかと噂になっていたが、真相は謎だ」
「毎日？ 人妻？ そんなことしていて、よく卒業できたわね」
祖父は、わたしが通っていた学校にそうしていたように、柾が通っていた学校にも十分な寄附をしていたはずだが、だからといって特別扱いを要求するような人ではない。
むしろ、人一倍厳しくしてやってくれと言いそうだ。
「学校側には、『家庭の事情』だと説明して許可をもらっていたらしいが、本当のことかどうかはわからない」
「家庭の、事情……？」
ふと、その事情に当てはまりそうなことが思い浮かんだ。
（も、もしかして………わたしを迎えに来るため？）
