二度目の結婚は、溺愛から始まる

「お祖父さんのことも心配だけれど……椿は、大丈夫なの?」


わたしが日本を離れた理由を知る瑠璃は、心配だと眉をひそめる。


「大丈夫よ。もう、七年も経つんだから」

「本当に? まだ忘れられないんじゃないの? 元旦那のことを」

「そんわけないでしょ。ちゃんと別の男と付き合ったじゃない」

「三か月なんて、付き合ったうちに入らないわよ」


二年ほど前、店の常連客の知り合いだという男性と三か月間だけお付き合いした。

優しくて、女性の扱いが上手くて、彼といるのは楽しくて……でも、キス以上の関係にはなれなかった。

キスをするたびに違和感を覚え、そんな自分に幻滅し、結局深い関係になる前に、終止符を打った。


「それを言うなら、三か月で離婚したら、『結婚』したうちには入らないことになるわ」


わたしの切り返しに、瑠璃は小さな溜息を吐いて謝った。


「……ごめん」

「わたしこそ……ごめん。瑠璃が心配してくれているのは、わかってる。でも、いまは、ひとりでいるのが気楽なの」

「それならいいけど……」


瑠璃は、それ以上わたしの古傷を突くのはやめた。

彼女は、大学時代にルームシェアをしていた唯一無二の親友だ。
わたし以上に、わたしのことをよくわかっている。

わたしが恋をしていたときも、結婚したときも――たった三か月で離婚したときも、傍にいてくれた。

六年前、身も心もボロボロになってこの国に降り立ったわたしは、瑠璃の顔を見るなり号泣した。

「気分転換に遊びに来ないか」という彼女の誘いは、あの時のわたしにとって命綱だった。

彼女とジーノが温かく迎えてくれなければ、わたしは日本で蹲ったまま、立ち直れずにいただろう。


「なんとか間に合いそうね?」


車は、渋滞に巻き込まれることもなく、予想より早く空港へ到着した。


「うん、ありがとう。落ち着いたら、連絡するから」

「ご家族によろしくね?」


トランクからスーツケースを下ろし、窓越しに別れを告げる。

ロビーの入り口へ向かうわたしの背に、瑠璃が呼び掛けた。


「椿っ! わたしもジーノも、待ってるからね! ちゃんと帰って来なさいよ!」


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