二度目の結婚は、溺愛から始まる

軽々と抱き上げられた瞬間、懐かしい匂いに包まれた。


(本物……)


伝わってくる確かなぬくもりが、夢を見ているのではないと教えている。

蓮は、茫然としているわたしを空いていたベンチまで運び、大きな手を差し出した。


「携帯は?」

「携帯……?」


ぼうっとしたまま、言われるままに手渡すと素早く操作して、わたしに返す。


「少しここで待っていろ」

「え?」


蓮は、唖然としている間に、わたしのスーツケースを手に立ち去った。


(わたしの……スーツケースっ!)


予期せぬ再会に思考が停止していたため、スーツケースを人質に取られたのだと気付くまでに時間が掛かった。

どうせ、大したものは入っていない。この際、スーツケースを犠牲にして逃げ出そうかと思った時、スマホが鳴った。


表示されているのは、見知らぬ番号だ。

祖父のこともあり、即座に応答する。


「はい、椿です」

『歩けそうか?』


電話越しに聞こえてきたのは、蓮の声だ。


「蓮?」

『歩けるなら、XX番の出口から外へ出ろ』

「蓮、わたしのっ……」


スーツケースを返してくれと言おうとしたわたしを遮って、蓮は一方的に命令する。


『スーツケースはそこにある。取りに来い』


言われるままに、指定された出口から車寄せに出ると、シルバーの車の傍に蓮がいた。


「乗れ」

「乗れって……」


自分の足で移動するつもりだと言う間もなく、腰を抱かれ後部座席へ積み込まれる。


「な、何をするのよっ!? 蓮っ!」


もがきながら起き上がった時には、すでに車は走り出していた。

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