(……いない。来ていないの?)


広いホテルの宴会場で、ある人――「雪柳 蓮」を探していたわたしは、一時間経ってもその姿を見つけられない事実にがっかりした。

初めて言葉を交わした日以来、蓮はここひと月ほどカフェに姿を見せていなかった。

担当の営業先が変わったのか、それとも異動になったのか。

兄や祖父に訊けばすぐに判明するが、どういう関係か問い詰められるとわかっていて、そんなことをする気にはなれなかった。

本人に電話しようかとも思ったけれど、用もないのに電話するのは気が引ける。

用を作ればいいのだとルームシェアをしている友人の瑠璃に言われたが、嘘を吐いてまで「社用」携帯に架けるのは、非常識だ。

結局、この気持ちはただの憧れ、会わずにいれば自然となくなるだろうと思うことにしたのだけれど……日が経つにつれ、会いたい気持ちは募る一方だった。

そんなとき、KOKONOEの創業五十周年記念パーティーがあると聞きつけ、参加させてほしいと祖父に頼み込んだのだが、空振りに終わりそうだ。


「それにしても、珍しいな? 椿がこういうパーティーに出たがるとは……」


傍らの祖父に言われ、不純な動機に感づかれたのではと焦る。


「え? あ、ええと……社会勉強になるかと思ったの」

「社会勉強?」

「来年には大学を卒業するんだもの。ビジネスマナーも必要でしょう?」

「仕事などせんでもいい。優秀で誠実な男と結婚すればいい。『KOKONOE』には入りたくないと(まさき)に言ったようだが、就職先がまだ決まっていないのだろう?」


兄の柾と母には、アルバイトのことも、カフェを開くつもりでいることも話してあるが、祖父には何もかも内緒にしていた。

平気で時代錯誤なことを宣う祖父は、反対するに決まっている。


「それは、そのとおりですけれど、結婚なんて……」

「両親が離婚したせいで、結婚に肯定的なイメージを持てないのはわかるが、世の中、おまえの父親のような男ばかりではない。いい男はたくさんいる」