二度目の結婚は、溺愛から始まる
初めてのデート

行き先を蓮に任せて着いたところは、郊外にある大型ショッピングモールだった。


「蓮の息抜きって……買い物なの?」

「ちがう。でも、椿と一緒なら楽しめそうだからな」

「わたし、そんなに買い物好きじゃないけれど?」

「知っている」

「じゃあ、どうし……ぐっ」


蓮の服の袖を引っ張ろうとした手を掴まれて、心臓が喉から飛び出しそうなほど、驚いた。


「椿? どうした? 具合が悪いのか?」


いきなり視界に飛び込んできた蓮の顔に、仰け反る。


「えっ!? な、なんでもないっ」


昼間にデートするのは、初めてだ。
それだけでも戸惑うのに、手まで握られて――恋人繋ぎで握られては、落ち着きようがない。

しかも、ごく普通のコットンセーターにジーンズという恰好でも、蓮はとても目立つ。

元妻のひいき目を抜きにしても、イケメンなので仕方ないとは思う。
が、横にいるわたしまで注目されるため、とても居心地が悪い。


(い、居たたまれない……)


気合いの入った恰好をしている時ならともかく、古着のジーンズにパーカー、底のすり減ったスニーカーという何ともやる気のない姿だ。

あちらを発つ時、その辺にあった服を適当にスーツケースに詰め込み、コーディネートやTPOなんてまるで考えていなかった。

靴下なんて、かろうじて色味は似通っているけれど、ちがうもの同士がペアになっている有様だ。


「まずは……その恰好をどうにかしないとな」


蓮は、そんなわたしの乏しいワードローブ事情を見抜いていたらしく、まっさきに女性物を扱うアパレルショップに向かった。


「いらっしゃいませ~」


愛想よく出迎えた店員に、人気のアイテムでわたしに似合うコーディネートをしてくれと言い出す。

店員は、「カモが来た!」とばかりに目を輝かせ、わたしを試着室に閉じ込める勢いで、次々とオススメのコーデなるものを差し出した。


「お似合いです~! いかがですか?」

「ああ、いいな。それを貰おう」


蓮は、店員とそんな会話を繰り返し、わたしにサイズが合えば片っ端から買うというとんでもない行為に走った。
 

スカート、パンツ、シャツ、カットソー、コートにジャケット……ひと通り買い占めたから、店を出るとき、店員に満面の笑みで見送られたのは当然の結果だ。


「蓮、買いすぎよっ!」

「店ごと買ったわけじゃないだろ」

「それはそうだけど、でも……」

「椿は、着飾ることに無頓着すぎる。そうだな……一応フォーマルな服も買っておくか」


まるでわたしの話を聞かず、蓮はさっさと次の店へ向かう。

先ほどのお店のものと比べると、どの品も桁がひとつ多い。


「蓮っ! こんなの着ていく場所がな……」

「ちゃんと着ていける場所に連れて行くから、心配するな」

「そう、そういう問題ではなくて…………」

「いいから、着てみろ」


再び試着室へ押し込められ、ファッションショーのモデル並みに試着を繰り返した挙げ句、蓮が気に入ったものを購入することに。

堅苦しい服が嫌いだというわたしの主張により、なんとか十着を三着まで絞り込んだが、蓮はかなり不満そうだった。

その後、鞄、靴、アクセサリーと買い回り、車のトランクと後部座席は山のような紙袋で埋まった。

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