エリート御曹司が花嫁にご指名です

二、退職願の行方

 羽田へ視察した日から、私は少し前から考えていた退職を決心した。このままでは私は赤ちゃんを腕に抱く日が来ない。

 望みのない恋と仕事を辞めて、お見合いをして結婚。そして子供のいる家庭を築き、幸せに暮らしたい。

 だから仕事漬けの単調な毎日から、私生活の充実を選ぼうと心に決めた。

 一身上の都合と書いた退職願は、バッグの中。

 桜宮専務と面と向かってしまうと、退職願を出す勇気が出ずに、金曜日になってしまった。

 大塚さまがいらしたときに、私に向けられた彼の笑みを、ふいにもう一度思い出して、首をプルプル左右に振る。

 社長が私との交際を尋ねたときも、桜宮専務は意に介さずだった。

 吹っ切らないとね……。

 その思いを強くするために、二十八歳の今日、朝食の席でお父さんに『誰かいい人がいたら紹介してほしい』と頼んだ。

 先日、そろそろ見合いでもしなさいと口にしていたのに、お父さんはあっけに取られていた。

 テーブルをバンッと叩いて、立ち上がったのは壮兄。

『壮二? どうしたの?』

 お母さんは、壮兄が不機嫌極まりない顔つきなのがわからないよう。私は壮兄の反応は想像できていた。

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