レンタル妹いりませんか。
【第零章】プロローグ
「あの」と大声を出して部屋に駆け込む。薄ら聞こえる時計の針音に包まれて、心臓が高鳴っていた。青ざめる私を見て、白衣を着た人が重く口を開いた。
「残念ですが」
ドラマやアニメで聴き慣れていたはずなのに、その時の私は、その台詞の意味を理解することが出来なかった。



「はい勝った〜!」
トランプを勢いよく床に置き、父を見る。父の手にはトランプが5枚。圧勝だ。
「思春期の女子が父親とスピードだなんて。子供っぽいのは顔だけにしてほしいわ」
笑いながら母がそう言う。
「えーっ!だってなかなかお父さんと遊べる時ないんだもん。それにほら、可愛い娘と遊べてお父さん嬉しいでしょ〜?」
「華菜ってポジティブでいいよなあ」
なによそれーと父を軽く叩く。家族で集まれるのは久しぶりだったからテンションも上がっていた。

姉の水華が隣で静かに本を読んでいる。お姉ちゃんっ子の私は、トランプを片付けて姉の横に座ってみた。
「なに」
不機嫌そうに本から目を離す水華。
「べつに〜?」
にやにやして姉の本を覗き込む。美味しそうなオムレツとハンバーグ、ホットケーキの絵が書いてあった。今日はどうやら料理系の本を読んでいるらしい。水華は極度の不器用で料理を作れないのに。
「いつまでのぞいてんの。この食いしん坊が」
眼鏡を持ち上げて私を睨む水華。とっさに私はハンバーグが食べたいなってちょうど思ってて、と言い訳をした。しかし水華もどうやらハンバーグが食べたいみたいで、母に向かって
「今日ハンバーグがいいんだけど」
と交渉を始める。ダイエット中の母も豆腐入りなら、といって買い物に行こう、と父がいった。
「せっかくみんないるんだし、家族四人で買い物をしようか」
「いいね、賛成!」
私は大きな声でそう言ってぴょんぴょん飛び跳ねた。跳ねないの、と母が私に言ったあと
「いいかもね」
と微笑んだ。

コートの袖に手を通し出かけようと思ったが、私は明日までの宿題があることを思い出して留守番をすることにした。
「みんなが事故にあったらあんた一人なのよ」
と脅す母に「死ぬくらいなら行かないでよ」と笑って見送った。

母と父と姉は、死んだ。
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