俺様騎士団長は男装女子が欲しくてたまらない〜この溺愛おかしくないですか?~
村一番の美女なのに!?

青々と茂る小麦畑に夕日が差す。

畑の脇で雑草を刈っている娘の名は、アリス・ウッド、十八歳だ。

背中まであるマロンブラウンの髪をひとつに束ねた彼女は、卵形の顔に琥珀色の瞳をして、ちょこんとした鼻の付け根にそばかすを散らしている。

細身の体に纏っているのは色あせた水色のエプロンドレスで、破れた箇所に似た色の布がつぎはぎされていた。

そろそろ畑仕事を切り上げて家に帰ろうと、アリスは長柄の鎌を肩に担ぐ。

「先に戻るねー!」

張り上げたその声は、広大な小麦畑の奥に見える人影に向けたもの。

手を振り応えてくれたのは、ひとつ年上の兄だ。

アリスの家族は両親と、兄と弟がふたりずつ。

母親は今頃、夕食の支度を始めたことだろう。

それを手伝うのが、畑仕事を終えてからのアリスの日課である。

ここはコックス村と言い、クランマー伯爵領内にある。

平和で争いごとのない静かな農村だが、アリスの家を含めた農民たちは、食べるのに精一杯という貧しさだ。

広大な小麦畑は伯爵の荘園で、借地であるため、収穫の六割を収めなければならない。

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