俺様騎士団長は男装女子が欲しくてたまらない〜この溺愛おかしくないですか?~
隠し事は難しい

初めて騎士団長の部屋に呼び出された日から、二十日ほどが経った七月下旬。

真夏の暑い日差しが降り注ぐ訓練場で、アリスは木剣を握っている。

剣の練習をやらせてもらえるようになったのは一週間ほど前で、走り込みと筋力トレーニングだけの毎日から、やっと解放された。

指導役の上官の笛の合図で木剣を交えた相手は、パトリック。

十分間、一対一で戦い、相手を替えて同じことを繰り返す。

訓練場には百人ほどの騎士がいて、あちこちで木剣をぶつけあう音が響いていた。

「やあっ!」

パトリックに向けてアリスは力いっぱい木剣を振り下ろしたが、軽くいなされ、逆に鋭く攻め込まれる。

「わわっ」

左右から激しく斬りかかられ、防戦一方のアリスは、石積みの壁際に追い込まれた。

逃げ場がなくなったところで顔面に剣先を向けられては、「降参」の声を上げるしかない。

笛の合図からまだ三分も経っておらず、周囲の騎士たちは戦いの最中だ。

「ねぇパトリック、僕に合わせて手加減してくれない?」

実力差がありすぎて、練習にならないと思い、アリスは苦笑してお願いする。

けれどもパトリックに、真顔で首を横に振られた。

「それは俺の訓練にならない。相手が戦意を失うか地に倒れるまで気を抜くなと、ロイ騎士団長に言われてる」

パトリックは強く真面目な性分だ。

三食付きの寝床を求めて仮入団したアリスとは違い、王都出身の彼は幼い頃から騎士たちの活躍を身近に見てきて、自分もそうなりたいと憧れていたらしい。

夢を叶えてからも志は高く持ち続け、さらに上を目指して訓練に手を抜こうとはしない。

入団が数年早い先輩従騎士を降参させていたし、よく指導役に褒められている。

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