愛溺〜番外編集〜

③後輩の本音




体育祭が近づいてきた放課後のグラウンドは、多くの生徒たちで溢れ返っていた。


「うわ!またタイム伸びてる!」


その日は各種目の練習ということで、私はリレーの練習をしていた。

沙彩の出る個人種目は綱引きらしく、本番勝負のようでタイムを計測してもらっていた。


1クラス男女ふたりずつ、合わせて4人がリレーに参加するのだが、私もその一員になれた。

もちろん男ふたりのうち、ひとりは瀬野である。
もう一人は───


「俺たちの友情パワーのおかげだな!」

こちらも2年に引き続き同じクラスになった真田が、そのもう一人であった。


「何が友情パワーよ。女の私たちが優秀だからに決まってんでしょ?ねぇ、愛佳ちゃん」


そんな真田の言葉を冷たくあしらったのが、ショートカットで現役陸上部の本庄由依(ほんじょうゆい)ちゃんだった。

彼女はもう一人のリレー参加者で、私よりも足が速い。


「う、うん…」


仮にも4人の中で一番足が遅いのだから、私は強く言えない。

けれど───


「ああ、本当に愛佳ちゃんは綺麗だわ。このスベスベな肌に整った顔立ち。いつまでも見てられる」


そんな由依ちゃんは少し…いや、かなりの変人であった。

何でも美女やかわいい子には目がないらしい。
そして私のことは、3年で同じクラスになる前から目をつけていたようだ。


今だって私の顔をうっとりと見つめてくる。

さらに現役陸上部ということで鍛え上げられた肉体を前に、私の力は敵わないため、彼女を押し退けることができないのだ。


「髪もサラサラで素敵ね。
この黒髪がさらに愛佳ちゃんの清楚感を…」

「本庄さん、あまり俺の彼女を困らせないであげて」


固まる私を助けてくれたのは涼介だった。

後ろから私の肩に腕をまわし、自分の元へと引き寄せてきたのだ。

< 20 / 83 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop