春の雪。喪主する君と 二人だけの弔問客

三人最後の最古の花火

あれは、

『ヒュルルル…ドオオーン…パチパチ…パチ』

最後になった、三人の夏、だったんだ。

意識の向こうで 大きく夜空に華が咲く。
シオンが 振り見上げると、とてつもなく大きな花火が
枝下た花弁をたおやかに広げている。
川沿いに並んで座り 花火を愛でる賑わいと、提灯の下を並ぶ屋台。
川風が心地よくて、シオンは ほうっと息をした。

シオンの左手の平には 繋ぐ白い手。少しヒヤッとする指は、繋いでると 几帳面な繊細さを感じる。右手は 日焼けした腕を掴んでいる。そちらは、つきはじめた弾力の中に温かみがある。

叔母夫婦が足を伸ばして遊びにくる愛知川。そこで毎年上がる花火は、滋賀でも最古の花火大会である。
川の向こう岸には神社の常夜灯。その神社は こちら側にある。
昼間に祖父が教えてくれたが、ここには江戸時代に 歌川広重が描いた『無賃橋』というものが 掛かっていたらしい。神社は珍しい橋の守護をする神社だとか。

中学生になったばかりのシオンは、今年も滋賀の叔母家に来ていた。
1つ違うのは、今年は祖父に連れられてだということ。昨日は、初めて祖父の生家があった 日野に連れて行ってもらったのだ。

シオンに左手を繋ぐレンが 聞く、
「シオンちゃんは、今日は何からたべたい?」

するとシオンが応える前に、シオンの右手が掴む腕の主 ルイが言う。
「もちろん、アイスだろ!こいつは いっつもそうだからな!」

シオンは、そんなルイを下から見上げながら、
「なら、綿飴」
と、言ってやるのだ。
レンの口がゆっくり弓なりになって、ルイを見つめたら

「わざと いうやつ!ヤナやつ!」
と、ルイは なぜかレイを見ながら いい放った。

いつもは、楽しみにしているアイスクリンから食べるシオンなのだが、丁度目の前に 綿飴が回し膨らむ釜が見えた。
その釜は、昼間に祖父が連れて行ってくれた神社の 『湯立神楽』を思わせ、
昨日 祖父の生家蔵でみた オクドさんをも思い出させる。

シオンが希望したとうりに、三人では 同じように子どもや、大人が集まる 綿飴屋台に並んだ。
ザラメに、色とりどりの色が合わさる。
高校になったレンと、中学三年になったルイの顔に オレンジの夜光灯が やんわり 光を当てるのをシオンは見上げる。

そして、
並びながら、シオンはどうして 祖父は 日野に自分を連れたのかを 考えた。

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