独占欲強めな御曹司に最愛妻として求められています~今夜、次期社長は熱烈求婚を開始する~
序章
『驚いた顔を見てみたい』という、ちょっとしたいたずら心だった。

普段人前であまり感情を出す事が無い君がどんな表情をするか。

こんな気持ちが芽生えている自分に少し戸惑いながらも、つい笑みがこぼれる。



 20時30分。既にこのフロアに残っている社員はいない。
 皆は2次会の店に着いた頃だろうか。

 長い廊下の電灯は、間隔を開け、3、4個点灯しているだけで全体的に薄暗い。

 こちらに華奢な背中を向けた彼女は、考え事をしているのか立ち止まって首をかしげ、何か独り言ちているようだ。

 極力音を立てないよう、気づかれないように彼女の背後に近づく。

 そして大げさにポンと左肩に手を置いた。


 刹那、思いもよらない事が起こった。

衿元が急に絞まり、足が床から浮く感覚を覚える。

 視界が突如反転する。

 反射的に受け身を取ったが、自分の背中が床に叩きつけられる乾いた音と、彼女のバレッタが外れて床に転がる小さな金属音を同時に聞いた。

――投げられた?

 受け身のおかげか体はどこも痛まない。一瞬の出来事に声も出せず唖然としながらも、こちらを覗き込むような姿勢になっている彼女を見上げる。その姿に息を飲んだ。


……キレイだ


 後ろでまとめていた髪が解け、艶のある黒髪が彼女の紅潮した頬にふわりと掛かっている。

 怯えながらもまっすぐこちらを見据えた表情、大きく見開いた瞳の奥は潤みながらも戦いを挑むような強い光を湛えている。

 その凛とした美しさに魅入られ、意識を吸い込まれたように目を逸らすことが出来ない。

 自分はきっと間抜けな顔をしていただろう。

 彼女が状況を理解するまで、おおよそ5、6秒だっただろう。その間、体中の感覚を全て使って彼女をただ見つめ続けた。

 
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