本日、総支配人に所有されました。~甘い毒牙からは逃げられない~
「良く頑張ったね、二人共。お疲れ様!」と言って、星野さんが私達の肩を叩いた時、無事に終わったんだと安心した。

披露宴の最中、星野さんは披露宴のバンケットマネージャーとして新郎新婦に付き添い、各関係者との連携を取りながら、成功へと導いた。

星野さんの立ち回り、凄く素敵で惚れ惚れしたし、披露宴の介添人(別名アテンダー)の女性も輝いていて憧れな存在。

自分自身も輝けた一日になったと思う。

「篠宮、中里、お疲れ様!片付けが終了したら上がりなさい」

披露宴サービスの関係者は終了後に遅めのお昼休憩を取り、現在は片付け中。

支配人が様子を見るついでに、ぐったりしている私達に上がり時間のお知らせに来たらしい。

従業員食堂に行き椅子に座ると、披露宴の最中の緊張感が解き放たれると同時に疲労感が身体中を襲った。

重だるい脚を無理矢理に動かし、配膳会の方々と一緒に会場の片付けをしているが、手慣れているのか作業が早すぎる。必死でついて行こうとするが、身体がついて行かない。

「篠宮さんって言うんだね。どこかで見た事があるんだけど…?」

ナイフやフォーク、食器を下げもの用の台車に分別しながら片付けていると隣から話をかけられた。

振り向くと、話をかけてきたと思われる人物は、配膳会から来ている大学生のアルバイトみたいな若い男性。

私の事を見た事があると言っているが、頭の中で思い出してみるけれど…私には記憶の片隅にも残っていなそうだ。

「もしかして、系列ホテルに居た?」

「は、はい、居ました。リゾートのホテルで…」

「やっぱりー!そうだよね、フロントに居た女の子でしょ?可愛い子は皆、覚えてるからさぁ。俺は大学四年の…」

「は…、はぁ…」

返答に困り、眉間にシワを寄せていた私に助け舟が舞い降りる。

「私語、禁止」

私と彼の間に割り込み、皿を重ね始めたのは支配人で鬼軍曹が降臨した。

私達の様子を見に来た後も滞在し、私の場所とは別な場所で片付けのヘルプをしていたらしい。

冷たく低い声で注意を促され、大学生の男の子はいつの間にか別の場所へと移動していた。
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