たとえばあなたのその目やその手とか~不釣り合すぎる恋の行方~
4.いきなりですか?!
4.いきなりですか?!

白い大理石調のタイルが敷き詰められたリビングは、ホールと呼んでしまいそうなほど広く、いかにも高級な黒い革張りのソファーとガラスのテーブル、そして小映画館と思わせるような大きなテレビが白い壁に備えつけられている。

リビングからは、バーベキューパーティーが開けそうな広いベランダにフラットに出れるようになっていて、そこからの夜景の眺めはさぞロマンチックなんだろうということは容易に想像できた。

いかにもハイスペックな男性が住む場所という印象で家具もほとんどない簡素な部屋だけれど嫌いじゃない。

それに、広い玄関からこの一番奥のリビングに来るまでにどれだけの部屋の扉があっただろうか。

社長プラスもう一人、いや三人くらいは悠に生活できるスペースは確保されていた。

「リビングを出てすぐのバスルームは好きに使えばいい。俺は自分のベッドルームに備え付けのシャワールームを使うから」

呆然と立ち尽くす私にそう伝えた彼は背広を脱ぎ、無造作にダイニングの椅子にかけた。

車中の間も難しい顔で一切話さず、家に入ってからも不機嫌な表情でようやく開いた口からは優しさなんて微塵も感じられない。だけど、それも無理はないかとも思う。

確かにこんな条件を最初に出してきたのは錦小路社長だけど、私にあきらめさせるための無茶な条件であって私が本当に家まで乗り込んでくるなんて想定外だったはず。

はっきりいって私が無理やり押し掛けてきた状況に等しい。しかも、彼が絶対関わりたくない出版社の得体の知れない人間でもある。

さすがに私もやりすぎたのかもしれないと今更ながら少し反省する。かといってここまで来た以上、彼には申し訳ないがこのチャンスを逃すわけにはいかない。

「あの……」

ネクタイを抜きとり、ワイシャツの腕のボタンを外している彼の後ろ姿に思い切って声をかけた。
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