たとえばあなたのその目やその手とか~不釣り合すぎる恋の行方~
6.飛んでベルギー
6.飛んでベルギー

結局、お風呂から出てすぐにベッドにもぐりこんだけれどなかなか寝つけないでいた。

あまりに寝れないものだから午前三時くらいからスーツケースに荷物を詰め始め、気が付いたら空がうっすらと白みはじめ出発の時間に近づいている。

全ての荷物を詰め終え大きく伸びをした時、部屋の扉にノック音。開けると、少し眠そうな社長が立っていた。

朝から目の前に立つ長身の彼を見上げ、あらためて大きな人だと思いつつ朝の挨拶をする。

「そろそろ出る時間だ」

「はい。よろしくお願いします!」

やや重たくなってしまったスーツケースを転がし、社長の後ろに続いた。

マンションの外には昨日の社長車が停まっていて、後部座席に乗り込む。

なんて贅沢なんだろう。社長車で空港まで直行だなんて。

昨日の朝とは全く違う自分の境遇を不思議に思いながら、車窓から少しずつ明るくなっていく空を眺めていた。

「気は変わらないか?」

隣に座る社長が、窓枠に肘をつき額に手を当てたまま尋ねる。

彼は眉間に皺を寄せ、その目は閉じていた。

「変わりません」

「……そうか」

その反応は昨日よりもにぶく、恐らく既にあきらめているけれど念のため聞いているだけのようにも感じる。

その証拠に、既に私の航空チケットは昨晩のうち手配されていた。

機内では、初めて座るファーストクラスだというのに眠くてほとんど寝てしまう。

エコノミーしか知らない私にとっては、こんな居心地がいい座席が同じ飛行機の中にあっただなんて、正直知らなきゃよかったくらいに衝撃だったというのに。

少し離れた席に座っていた社長もずっとリクライニングして寝ていた。きっと昨日から私が転がり込んできて相当疲れているんだろう。機内では食事もろくに食べていないんじゃないかしら。

時々おいしい機内食を頂きつつ寝ていたら、十二時間のフライトなんてあっという間でブリュッセル国際空港に到着していた。






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