たとえばあなたのその目やその手とか~不釣り合すぎる恋の行方~
8.俺としたことが……Ⅱ~礼side~
8.俺としたことが……Ⅱ ~礼side~

どういう訳かさっきから気持ちが落ち着かない。

イライラするのとも違う、自分自身が制御不能になりそうな焦りと言った方がいいか。

渡辺家の玄関を出ると、外の空気は随分とひんやりしていた。

真っ暗で静かな高原にぽっかりと明るく浮かぶ月が、まるで俺をせせら笑っているように見える。

思わず、そんな月に舌打ちした。

俺自身、今どういう状況に陥っているのか見失う時がある。

それも藤都が俺の前に現れてからだ。

出会ってたった二日だというのに、あいつはいつの間にか俺の生活の中にすっぽりと収まっている。

俺自身ですら、ふとその違和感を忘れてしまうほどに。

自分が招いた種であることは間違いないが、こんなにも普通に俺の生活にのさばられると俺のペースが狂ってくる。

そのうち、あいつがそばにいることすらあまり違和感がないような気さえしてくるから恐ろしい。

何なんだ?藤都という女は?

それ以上に質が悪いのは、彼女の真っすぐすぎる感情がかつての俺を呼び覚まそうとすることだ。

取り込まれてはだめだ。俺が一度切り捨てた過去の自分が今の俺を脅かしていた。

もう二度とあんな過ちを犯したくない。

しかし、藤都の衝動的言動を完全に否定しきれない自分がいる。

あの時、会社を辞める羽目になった俺の衝動は本当に間違いだったのかということすら、一瞬ぶれそうになっているのだ。

ふと思ってしまうんだ。あの危険を省みない衝動がなかったら今の俺はないんじゃないかと。

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