みずあめびより
大通りまで走ってタクシーを拾う。タクシーを自分で止めるのは初めてだった。運転手に会社の最寄り駅まで行ってもらうように伝える。会社は駅から徒歩5分ほどだった。

通勤で鈴太郎の車に乗っているとあっという間に会社付近に着いてしまい、二人きりの時間が終わることを寂しく感じてしまうのに、今日はその距離がとても長く感じた。

駅に着きタクシーを降りると、とりあえず北岡が見ていたチラシの店に向かう。店に着くとちょうど男性店員が外に出してある立て看板を片付けているところだったので声をかける。

「・・・あの・・・。」

「申し訳ありませんが当店の営業時間は2時までとなっておりまして、本日はあいにく閉店致しまして・・・。」

丁寧に対応してくれる店員にスマホに入っている鈴太郎の写真を見せる。二人で公園にピクニックに行った時に撮ったものだ。

「あの、今日こちらに来てるかわからないのですが・・・その、知り合い・・・が来てたかも知れなくて、連絡がとれなくて・・・この人、来てませんでしたか?」

「恐らくいらしてなかったと思いますが・・・お役に立てず申し訳ありません。」

店員はしばらく写真を見てから答えた。彼は何も悪くないのに本当に申し訳なさそうな様子なのでこちらが恐縮してしまう。

「い、いえ!お忙しいところありがとうございました。」

深くお辞儀をして礼を言うとその店を離れた。親身に対応してくれた店員のお陰で、不安に固まっていた心が少し(ほぐ)れた気がした。
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