みずあめびより

出張びより

「ピッ、ピッ、ピッ、ピッ・・・」

───はぁ・・・。

木曜日の昼休みの図書館。

静かな図書館も意識してみれば結構色々な音が聞こえる。

足音、貸し出す本のバーコードをリーダーで読む音、「30日までにご返却ください。」という司書の人の声、本を出し入れしたり整理したりしている音、新聞をめくる音、咳やくしゃみ、鼻をすする音。

でも、自習コーナーで机に向かう衣緒には何も耳に入ってこなかった。

加えて、目の前に広げた参考書の文字も全く目に入ってこなかった。

───こんなに集中できない状態で机使っていたら駄目だよね。他に使いたい人いるのに。

勉強道具を片付けて席を立ち、先程持参したお弁当を食べていた中庭のベンチに戻る。

この図書館の中庭は色とりどりの花が植えられ、木陰や屋根もある居心地が良い場所のため、少なくとも8割のベンチは会社員風の人や学生と思われる若者、小さい子供と母親達で埋まっている。

───昨日は色々あり過ぎた・・・。

思わずため息をつく。

複合機コーナーでの新貝との会話、川沿いのベンチでの鈴太郎からの告白、そしてあの女性・・・。

二人は後ろを向いていたが、話をするために女性は鈴太郎の方を見た。

ショートカットの彼女の横顔は、目が大きくて全体的に彫りが深い、整った顔立ちだった。年齢は20代前半だろうか。背が高くノースリーブに短いボトムスをはいていたが、下品な感じはなく健康的だった。

そして聞こえたボーイッシュな外見とは対照的な高くて可愛らしい声。

「リンタロウ、うちに靴下忘れてったでしょ？」

───あの女性(ひと)は誰なんだろう・・・。そして返事は急がなくていいって言ってくれたけど・・・あっ、サボテンいつ渡そう・・・。新貝さんとも早く話さなくちゃ・・・。

悶々としているうちに時間は過ぎて会社に戻る為に立ち上がった。