バイオレット・ダークルーラー
約束
「あの、紫月さん」
「もう敬語じゃなくていい。俺もその方が楽だ」
大部屋でふたりきりになった瞬間
わたしの横に座った紫月さんが、ゆっくりと制する。
「存在すらしない御堂紫苑を、人間らしいと言ってくれてありがとう」
「っ!」
「…俺の本当の名前は藤宮(ふじみや)紫月。御堂紫苑は偽名。…言った通り、性格も含めてすべてが作り物だ」
「…うん」
「本当の俺は、警視総監の息子」
彼の瞳が揺れていた。
…疑問に思っていたこと。どこか引っかかっていたこと。彼の口から直接聞くことは、わたしのなかで大きな意味を成していた。
「隠して学校に通わなければならない、理由があるんでしょう」
「…あぁ」
「わたしが裏切られたって言って、帰るとでも思ったの?約束を破って?」
「っ、」
「あなたの彼女、見くびらないで――…わっ!?」
…あぁ、やっぱり彼は繊細だ。
人の気持ちを一生懸命に理解しようとしていながら、本当は恐れていることを言えない。
「…朱里、」
「うん」
「愛してる…っ」
「わたしも愛してるよ、紫月」
抱きしめられたそのぬくもりを、わたしはよく知っている。