医者の彼女

解放


ー…

「亜妃、…亜紀。」

遠くで誰かが私の名前を呼ぶ。

声は聞こえるのに姿が見えない。
でも気配はしっかりと感じる。

「だれ?」

尋ねるが、私の声は届かない。

「亜妃…なんで。なんでこんな事に…」

どうやら声の主は悲しんでくれているらしい。
私のために悲しんでくれて嬉しい。

そう思った瞬間。

「お前なんかが産まれてくるから、
俺の人生が狂うんだ。疫病神が!」

同じ声。

「出逢わなければよかった」

それだけ言うと、離れていく。
私はその人を追って、近づこうとするのに
距離は一向に縮まらず、どんどん遠くに
行ってしまう。

「待って…ごめんなさい。最後にちゃんと
謝りたいの‼︎」

「亜妃…さよなら」

一生懸命見えないその人を追っていた私は
目の前が真っ暗になり、そのまま崖から転落する。

最後がこのような別れなんて…
せめて最後にもう一度顔が見たかったな…
ちゃんと謝りたかった…

ー出逢わなければよかったー

その言葉が何度も頭の中に響く。
声の主が誰かは分からない。

でも、おそらく和弥さんなのだろう。

胸が苦しくなる。
自分から離れたくせに…わがまますぎる。

わかってる、私なんか産まれてきちゃいけなかった。
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