死にたがりの僕が、生きたいと思うまで。
五章

義愛。


「おはよう、赤羽くん。今日は天気がいいよ」
 病室に、アビラン先生が入ってくる。
 英語でそんなことを言って、アビラン先生はベッドのそばの窓を開けた。
 アビラン先生は茶髪に細見のしなやかな体をしていて、少し吊り上がった二重の瞳をしている。
「……そうですか」
 俺は英語でそう返し、窓の外に広がる景色を見た。
 天気はうざいくらい快晴で、雲も少ない。ビル街の奥に見えるエッフェル塔が太陽で照らされている。眩しい。道路には金髪で色白な人もいれば、茶髪で褐色肌の人もいた。
 今は九月だ。フランスに来てからおよそ三年が過ぎ、日常会話程度なら英語で一通りできるようになった。
 腐りかけている体なのに、三年持った。
 果たしてそれは喜ばしいことなのか。……喜ばしくなはいか。親戚にはまだ死ねって思われているのだろうし。
 あづは今頃、どうしているのだろうか。生きているなら、もう高一か。
 楽しく高校生活謳歌してんのかな。
 ふと、あづの痣が頭を過った。
 あいつ、まだ穂希先生に殴られたりしてんのかな。
「赤羽くん? どうかしたのかい? ご飯、食べないのかい?」
 いつの間にか、サイドテーブルの上にご飯が置かれていた。用意されていたのに、全然気づかなかった。
「……食べます。先生こそ、どうしたんですか。浮かない顔して」
 俺はご飯を口に運んだ。
 それから目じりを下げている先生を見て、首を傾げる。
「赤羽くん、昨日の検査結果が出たんだけどね、その……」
 言いにくそうに、先生は顔を伏せる。
「あ、悪いんですか」
「……そうだ。君は、もって後四か月だ」
 思わず箸が止まる。
「……そう、ですか。三年持っただけでもう十分です。先生が気に病むことはありませんよ」
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