心を ほどいて  ~コーディネーター麻里絵
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田辺さんの車は 殺風景だけど 

きれいに掃除されていた。

助手席に座って 珍しそうに キョロキョロする私。


「お客さんを 乗せるから。案外 きれいでしょ?」

田辺さんは 照れた顔で笑う。

「うん。ちょっと意外。」

「えー。俺 だらしなく見えた?」

「そうじゃなくて。シンプルだから。」


エンジンをかけて 聞こえてきた音楽は

スローテンポのジャズ。


「田辺さんて こういう音楽 聞くの?」

私は 田辺さんのことを 

何も知らないことに 改めて気付く。


「運転するときは 結構いいよ。邪魔にならなくて。」

「へぇ…ますます 意外。」

クスクス笑う私を 田辺さんも 笑顔で受け止めてくれる。


話し上手な 田辺さんだけど。

黙っていても 気詰まりじゃなくて。

静かに走る 車の中は 快適な空気感。


ぼんやり 耳を傾けていたBGM。

流れてきた曲が 私の胸を 揺さぶる。


「これ なんていう歌?」

「シャドー・オブ・ユア・スマイル だったかな。古い映画の音楽だよ。」

「シャドー・オブ・ユア・スマイル…あなたの笑顔の影…?」

「ハハハ。直訳すんなよ。でも 今の俺みたい。」


切ない旋律と 甘悲しい歌声が 心に響いて。

急に 胸が熱くなる。


音楽に合わせて 田辺さんが ハミングした時

私の涙は 瞳から こぼれた。





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