幸せにしたいのは君だけ
８．君が誰より大事なのに　～圭太～
目の前で起こった事態に理解が追いつかない。

店をあっという間に飛び出していった恋人。

焦りとイラ立ち、佳奈を失うかもしれないという怖れが冷静さを奪う。


あんな風に女性に対して、ましてや恋人に対して、声を荒げた経験は今まで一度だってなかった。

それなのに引き留めるのに必死で、気がつけば大声で叫んでいた。

周囲が何事かといった目を向けていたが、そんなものに構っている余裕はなかった。


唇を噛みしめて、泣くのを必死にこらえる佳奈の表情が目に焼きついて離れない。

そんな顔をさせてしまった自分自身に腹が立つと同時に、心が引き裂かれるように痛む。


悲しませたいわけじゃない。

泣かせたいわけじゃない。

大事にしたい、ただそれだけなのに。


ずっと――ここ最近は特に、恋人の様子にどこか違和感があった。

急に連絡をとらなくなったり、よそよそしい態度をとる。


いつからだろう。

佳奈の笑顔がどこかぎこちないと感じたのは。

無理をしているように思えたのは。
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