幸せにしたいのは君だけ
3.「俺を選んで、本気の恋をしてほしい」
ふわ、と身体が揺れている気がする。

それなのに恐怖心はまったくない。

むしろ安心している自分がいる。

まるで誰かが大切に自分を抱きしめてくれているような、そんな感覚。


……抱きしめられて、いる?

ハッと目が覚めた。

まさか、私、寝てたの?


「ああ、起きた? 頭痛はどう?」


私を覗き込む綺麗な二重の目。

吐息さえ聞こえそうなくらいの近い距離にひゅっと息を呑む。


「さ、佐久間、さん……?」

「佳奈、呼び方が違う」

「えっ? いえ、あの、私……」

「佳奈、ちゃんと呼んで」

「け、圭太さん……」

「うん、なに?」

「あの、ここは……っていうかお、下ろしてください!」


自分の状況を目にした瞬間、叫んでしまった。

あろうことか、私は圭太さんに横抱きにされて運んでもらっていた。


ちょっと、待って。

この状況はなに? 

ここはどこ?

なんで私、抱き上げられたのに気づかないの?

そんなに熟睡してたの? 

まさか服用した薬のせい? 


うろたえる私をよそに、広く長い廊下を平然と歩く彼。

見たところ、ここはどこかの家の中のようだ。

しかも、とんでもなく豪華なお屋敷の。

廊下の所々に飾ってある調度品はとても高価そうだし、なによりこれほど広いのに塵ひとつ落ちていない。

完璧に掃除がされている証拠だ。
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