策士な御曹司は真摯に愛を乞う
御曹司は雲の上の人
頭の芯、脳の奥深いところで、不快なノイズが走る。
テレビでしか見たことのない、遠い昔の活動写真のような不鮮明な映像が、脳裏で再生されていた。


途中、何度も白い光に遮断されてシーンが飛ぶせいで、なにかの映画を観ているのか、それとも自分の潜在意識なのか、それすらも曖昧だ。


音声は、ひび割れる。
女性が声を荒らげているように聞こえるけど、なぜ、誰に対してなのか。
そこに割って入った、緊迫した、鋭く低い男性の声には、聞き覚えがある。


そのやり取りは、どこか不穏だ。
私まで、とても胸が痛い。
締めつけられるような苦しみに襲われ……。


『……!』


なにかを口走った。
でも、やっぱり音声は不明瞭で、なにを言ったのか聞き取ることはできない。
一瞬、またしても白い光が射し、ノイズと共に映像がぶれた。


『……っ……!!』


映像が切り替わり、男性が弾かれたように床を蹴って走り出す。
それを観ている私の目線は、なんとも奇妙だ。


どこか低いところから、仰いでいるような。
口と目を大きく開き、切迫して凍りついた表情で、まっすぐ腕を伸ばす男性は、私の視界の中でどんどん遠く、小さくなっていき……。


――暗転。


なにが起きたんだろう。
誰かがすぐそばで、張り裂けるような声で私の名を絶叫している。


身体中が痛い、そんな気がする。
でも、それを超えた頭と腹部の痛みが、私の意識を遠退かせていく――。
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