策士な御曹司は真摯に愛を乞う
記憶の断片を繋いで
夏芽さんのマンションに帰ってすぐ、私はリクエストを受けた三色丼の調理を始めた。
その間に、彼には先にシャワーを浴びてもらう。


お麩の清汁の味見をしていた時、リビングのドアが開く音が耳に届いた。
なんてグッドタイミング。
ちょうど夏芽さんが入浴を終えて出てきたようだ。


「ん。いい匂いがする」


鼻を利かせていそうな声が聞こえてきて、


「夏芽さん! お疲れ様です。タイミング、ばっちりです。今ちょうど夕食の支度が終わって……」


広い調理台越しに、弾んだ声をかける。
ところが――。


「っ!」


リビングに入ってきた彼を一目見て、勢いよく目を逸らしてしまった。


そうだ、お風呂上がり……。
腰穿きのルーズパンツと、ゆったりした長袖Tシャツというかなりラフな格好は今朝も見たけど、濡れ髪をタオルで拭う彼は見慣れない。
なんだか妙な色気が漂っていて、とても正視できない。


昨夜は私もほとんど部屋で過ごしていたから、こういう事態を想定できなかったけど……。
同居するからには、こういうリラックスモードの夏芽さんを、日常的に見ることになるのだ。
二日目でこんなに心拍数と血圧が上がりそうなのに、やっていけるのか一気に不安に陥る。
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