セレナーデ ~智之

母は 心を閉ざした智之に ずっと胸を痛めていた。


何が 智之を 苦しめているのだろう。

兄弟二人を 同じように 育てたつもりだったけれど。

智之にかける愛情に 何かが 足りなかったのだろうか。



当然 父親の会社に 就職するものと思っていたのに。


一般企業を 受けるという智之。


あえて 歩き難い道を選ぶ。

家族と 過度に係ることを 避けているのだろうか。


母は 切なく自分を責めてしまう。
 


智之自身も そんな母の気持ちに 気付いていた。



温かな家族と 恵まれた環境。


それを 与えてくれた両親に 感謝していた。

でも このまま 父の会社に就職しては 

もっと 空しくなるような気がしたから。



あえて 荒波に揉まれてみたい。


心の穴など 気にする余裕もないくらい 自分を 傷めたかったから。
 


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